病院や薬局の受付で、マイナンバーカード(マイナ保険証)をカードリーダーにかざした際、「薬剤情報や特定健診情報の提供に同意しますか?」という画面が表示され、一瞬手が止まってしまった経験はありませんか?
「自分の医療情報を知られたくない」「情報漏洩が心配だから、とりあえず同意しないでおこう」と考える方もいらっしゃるでしょう。
しかし、その一方で「同意しないと不利になる?」「診察を拒否されたり、薬がもらえなくなったりするの?」「医療費が高くなるって本当?」といった、たくさんの疑問や不安が湧いてくるのも事実です。
特に、過去の病歴やデリケートな薬剤情報を誰が見るのか、そのリスクについてはっきりと知りたいですよね。
この記事では、そんなあなたの悩みに寄り添い、「マイナンバーカードの薬剤情報提供に同意しないとどうなるのか」という疑問に、どこよりも詳しく、そして分かりやすくお答えします。
同意しない場合の具体的なデメリットから、気になる医療費の加算、そして一度行った同意の取り消し方法や安全性まで、この記事を読めばすべてがクリアになります。
この記事でわかること
- 薬剤情報提供に「同意しない」を選んだ場合の具体的な影響
- 医療費が高くなる「医療情報取得加算」の仕組み
- 同意するメリットと同意しないデメリットの徹底比較
- 同意の設定を「あとから変更」したり「取り消し」したりする具体的な方法
- 「誰が情報を見るのか」「情報漏洩のリスク」といった安全性への疑問への回答
マイナンバーカードの薬剤情報に「同意しない」とどうなる?起こりうる4つのこと
多くの方が一番気になる点、「同意しない」ボタンを押したら、具体的に何が起こるのでしょうか。結論から先に言うと、不利な扱いを受けたり、必要な医療が受けられなくなったりすることはありません。しかし、いくつかの影響があります。
結論:同意しなくても診察拒否や薬がもらえないことはない
まず最も大切な点として、薬剤情報提供に同意しないことだけを理由に、医師が診察を拒否したり、薬局が薬の処方を拒んだりすることは、原則としてありません。
医師には「応召義務」というものがあり、正当な理由なく患者の診療を拒むことは医師法で禁じられています。情報提供に同意しないことは、この「正当な理由」には当たらないため、安心して受診してください。
影響1:医療費の自己負担額が高くなる【医療情報取得加算】
同意しない場合に最も直接的な影響が出るのが、医療費です。マイナ保険証を利用しても、薬剤情報などの提供に同意しなかった場合、初診時や再診時に「医療情報取得加算」というものが上乗せされ、窓口での自己負担額が少し高くなります。
これは、国が質の高い医療を実現するために、医療DX(デジタル技術活用)を推進していることが背景にあります。医療機関が患者の正確な情報を取得・活用できる体制を整えていることを評価し、その上で、実際に情報を活用できたか(=患者が同意したか)によって点数が変わる仕組みです。
具体的には、2024年6月の診療報酬改定で以下のように設定されています。
【医療情報取得加算(2024年6月~)】
タイミング | マイナ保険証の利用状況 | 診療報酬点数(3割負担の場合の窓口負担額) |
初診時(月に1回) | 【同意しない】または従来の保険証を利用 | 3点(約9円) |
【同意する】 | 1点(約3円) | |
再診時(3ヶ月に1回) | 【同意しない】または従来の保険証を利用 | 2点(約6円) |
【同意する】 | 1点(約3円) |
※他の医療機関からの紹介状を持参した場合は、同意の有無にかかわらず1点となります。
このように、1回あたりの金額はわずかですが、医療機関を受診するたびに差額が生じるため、年間で考えると損をしてしまう可能性があります。
影響2:これまで通り「お薬手帳」の持参がほぼ必須になる
薬剤情報提供に同意すれば、医師や薬剤師があなたの過去の処方薬の履歴を正確に確認できるため、お薬手帳を持参しなくても問題ありません。
しかし、同意しない場合は、医療機関側であなたの正確な服薬状況を把握する手段がなくなってしまいます。そのため、これまで通りお薬手帳を持参するか、現在服用中の薬をすべて正確に口頭で説明する必要が出てきます。もしお薬手帳を忘れてしまうと、安全な処方のために、より詳細な問診が必要となり、手間と時間がかかってしまいます。
影響3:口頭での問診や確認に時間がかかる可能性がある
お薬手帳を持参していたとしても、医師や薬剤師は安全を期すために、アレルギー歴や副作用歴、他の病院での処方状況などを改めて口頭で詳しく確認する必要が出てきます。
同意をしていれば、システム上で瞬時に正確な情報を確認できるため、診察や調剤がスムーズに進みます。同意しない場合は、その分の確認作業が増え、結果的に待ち時間が長くなるなど、面倒に感じる場面が出てくるかもしれません。
なぜ?マイナンバーカードの薬剤情報に「同意したくない」3つの理由
デメリットがあると分かっていても、なぜ多くの人が「同意しない」という選択肢を考えるのでしょうか。その背景にある、もっともな理由や心理を掘り下げてみましょう。
理由1:精神科の通院歴など「知られたくない情報」がある
最も大きな理由が、「プライベートな医療情報を他人に知られたくない」という気持ちでしょう。特に、以下のようなデリケートな情報は、たとえ相手が医療従事者であっても、必要以上に共有したくないと感じるのは自然なことです。
- 精神科や心療内科の通院歴
- 性感染症などの治療歴
- その他、他人に知られたくない病気の治療歴
この点については、後の章「薬剤情報・医療情報のプライバシーは守られる?」で詳しく解説しますが、閲覧できるのは診察・調剤を行う医師・薬剤師などに限定されており、かつ閲覧には毎回あなたの同意が必要です。決して無関係な第三者に見られることはありません。
理由2:情報漏洩や不正利用のリスクが怖い
「マイナンバー」という言葉から、すべての個人情報が紐づいていて、一度漏れたら大変なことになる、というイメージを持つ方も少なくありません。
しかし、これも誤解です。マイナンバーカードのICチップには、税や年金、医療情報といったプライバシー性の高い情報は記録されていません。また、カードを紛失しても、顔写真付きであることや暗証番号がなければ使えないため、他人がなりすまして悪用することは極めて困難です。国は通信の暗号化など、万全のセキュリティ対策を講じています。
理由3:制度自体がよくわからず、とりあえず「同意しない」を選んでいる
「よくわからないものに『はい』と答えるのは怖い」と感じ、とりあえず「同意しない」を選択しているケースも多いでしょう。
医療機関の窓口で、後ろに人が並んでいる状況では、じっくり考えている時間もありません。内容を十分に理解できないまま、リスクを避けるために反射的に「同意しない」を選んでしまうのは、仕方のないことかもしれません。
デメリットだけじゃない!薬剤情報に同意する5つの大きなメリット
「同意しない」場合のデメリットや不安について見てきましたが、逆に「同意する」ことには、それを上回るほどの大きなメリットがあります。これを知ることで、あなたの選択も変わるかもしれません。
メリット1:正確な情報共有で「医療の安全性」が格段に向上する
最大のメリットは、医療の安全性が向上することです。
- 重複投薬の防止:複数の医療機関から同じような薬が処方されるのを防ぎます。
- 危険な飲み合わせのチェック:飲み合わせの悪い薬が処方されるリスクを回避できます。
- アレルギーや副作用歴の確認:あなたが過去に経験した副作用などの情報が正確に伝わり、安全な処方につながります。
口頭での説明やお薬手帳の記録だけでは、伝え漏れや記入漏れのリスクが常に伴います。しかし、データで連携することで、より正確で網羅的な情報に基づいた、質の高い医療を受けられるようになります。
メリット2:旅行先や災害時など「もしも」の時に命を守る
旅先で急に体調を崩したり、災害に巻き込まれたりした場合でも、マイナ保険証があれば、かかりつけ以外の病院でもあなたの正確な医療情報が伝わります。
東日本大震災では、お薬手帳を津波で流されてしまい、普段飲んでいる薬が分からなくなった方が大勢いました。そのような緊急時でも、マイナ保険証に同意していれば、適切な治療を迅速に受けることができ、文字通り「命綱」となり得るのです。
メリット3:医療費の自己負担額が「安くなる」
先ほど解説した「医療情報取得加算」において、同意することで窓口負担が毎回少しだけ安くなります。一度の額は小さくても、積み重なれば家計の助けになります。
メリット4:「限度額適用認定証」の提示が不要になる
入院や手術などで医療費が高額になった際に、窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめることができる「高額療養費制度」。
従来はこの制度を利用するために、事前にご自身の健康保険組合などに「限度額適用認定証」を発行してもらう必要がありました。しかし、マイナ保険証を利用し情報提供に同意すれば、この認定証がなくても自動的に制度が適用され、窓口での支払いが自己負担限度額までとなります。面倒な事前申請の手間が省け、急な入院でも安心です。
メリット5:お薬手帳の持参や管理の手間が省ける
診察券、保険証、お薬手帳…と、病院に行くたびに持ち物が多くて大変、と感じたことはありませんか?
薬剤情報提供に同意すれば、お薬手帳を持っていく必要がなくなります。「うっかり忘れた!」という心配もなくなり、荷物も減ってスマートに受診できます。
【実践編】同意設定の変更・取り消しは「あとから」でもできる?
「一度『同意する』を選んだら、ずっとそのままなの?」「やっぱり不安だから取り消したい」という方、ご安心ください。同意の設定は、受診のたびに毎回変更できますし、過去の同意を取り消す(情報の閲覧を停止する)ことも可能です。
方法1:医療機関の「顔認証付きカードリーダー」でいつでも変更可能
最も簡単なのが、病院や薬局に設置されている顔認証付きカードリーダーで操作する方法です。
- 受付でマイナ保険証をカードリーダーにかざす
- 「顔認証」または「暗証番号認証」で本人確認を行う
- 「薬剤情報・健診情報の閲覧」に関する同意確認画面が表示される
- ここで「同意する」か「同意しない」を自由に選択する
この操作は受診の都度行いますので、「今回は同意するけど、次の病院では同意しない」といった柔軟な対応が可能です。
方法2:マイナポータルで過去の同意履歴の確認・取り消し(閲覧停止)もできる
政府が運営するオンラインサービス「マイナポータル」を使えば、自分の医療情報が「いつ」「どの医療機関に」閲覧されたかを確認できます。
さらに、薬剤情報や特定健診情報を医療機関へ提供する設定を、一括で「OFF」にすることも可能です。これにより、今後医療機関側があなたの情報を閲覧できないように設定を停止(取り消し)することができます。
ただし、注意点として、これは「未来の閲覧を停止する」設定であり、一度医療機関が閲覧した情報を、その医療機関のシステムから消去するものではありません。
方法3:マイナ保険証の「利用登録自体を解除」することも可能
根本的にマイナンバーカードと健康保険証の紐づけをやめたい場合は、「利用登録の解除」という手続きも可能です。
この手続きは、ご自身が加入している健康保険組合や市町村の国民健康保険担当窓口など、保険者に対して申請を行います。手続きはオンラインではなく書類提出が基本となり、解除が反映されるまでには時間がかかる場合があります。解除後は、保険証の代わりに「資格確認書」が発行され、それを使って受診することになります。
薬剤情報・医療情報のプライバシーは守られる?安全性への疑問に回答
それでも拭えない「知られたくない情報」に関する不安。ここでは、皆さんが抱えるプライバシーと安全性の疑問に、Q&A形式で詳しくお答えします。

Q1. 私の医療情報は、一体「誰が」見るのですか?
A1. あなたの診察や調剤に直接関わる医療従事者(医師、歯科医師、薬剤師など)のみです。役所の職員や、保険組合の職員、あるいはまったく関係のない第三者があなたのデリケートな医療情報を閲覧することは絶対にありません。また、医療従事者には厳格な守秘義務が課せられています。
Q2. どんな情報が見られるのですか?過去の全ての病歴が知られてしまう?
A2. 見られる情報は限定されています。全ての病歴が筒抜けになるわけではありません。マイナ保険証の同意によって閲覧可能になるのは、主に以下の2つの情報です。
- 薬剤情報: 過去に処方されたお薬の名前、用法、用量など。
- 特定健診情報: 40歳以上の方が受けるメタボ健診などの結果。
うつ病などの精神疾患名や、がん、HIVといった具体的な「傷病名」そのものが、このシステムで直接共有されることは現在のところありません。医師は、処方された薬の種類から病状を推測することはありますが、それはお薬手帳でも同様です。あくまで、安全な医療を提供するために必要な情報に限定されています。
Q3. 「全てに同意する」は必須?特定の情報だけ隠すことはできますか?
A3. 現時点では「薬剤情報」と「特定健診情報」をまとめて同意・不同意する仕組みです。残念ながら、現在のシステムでは「A病院の薬の情報は見せるけど、Bクリニックの薬の情報は隠す」といった、個別の情報選択はできません。「同意する」か「同意しない」かの二択となります。この点は、今後のシステム改善が期待されるところです。
Q4. マイナンバーカードを紛失したら、情報が全部漏れてしまうのでは?
A4. 紛失しても、ICチップから医療情報が漏れることはありません。前述の通り、マイナンバーカードのICチップ自体には、医療情報などのプライベートなデータは一切入っていません。万が一紛失・盗難にあった場合は、24時間365日対応のコールセンターに連絡すれば、カードの機能を一時停止できます。
FAQ(よくある質問)
Q1. マイナンバーカードの薬剤情報に同意しないと、何か不利になりますか?
A1. 不利になることはありません。診察を拒否されたり、薬をもらえなくなったりすることはありませんのでご安心ください。ただし、医療費の自己負担額が数十円程度高くなる「医療情報取得加算」がかかるほか、お薬手帳の持参が推奨されるといった点はあります。
Q2. 同意しない場合、医療費は具体的にいくら高くなりますか?
A2. 2024年6月1日以降の制度では、初診時で2点(3割負担で約6円)、再診時(3ヶ月に1回)で1点(同約3円)の差が出ます。同意した方が、この差額分だけ窓口負担が安くなります。
Q3. 自分の薬剤情報は誰が見るのですか?
A3. あなたの診察や調剤を担当する医師、歯科医師、薬剤師に限られます。役所の職員や全く関係のない第三者が閲覧することはできません。また、医療従事者には法律で守秘義務が課せられています。
Q4. 精神科の通院歴など、デリケートな病歴も知られてしまうのですか?
A4. 「うつ病」などの具体的な病名(傷病名)が直接共有されることはありません。共有されるのは、主に「いつ、どの医療機関で、どんな薬が処方されたか」という薬剤情報と、特定健診の結果です。医師は処方薬から病状を推測することは可能ですが、これはお薬手帳でも同じです。
Q5. 一度「同意する」を選んだら、もう変更できないのですか?
A5. いいえ、同意の設定は受診のたびに医療機関のカードリーダーで毎回選択できます。「今回は同意する、次回は同意しない」というように、その都度ご自身の判断で変更することが可能です。また、マイナポータルから将来の閲覧を停止する設定もできます。
まとめ:あなたの意思が最優先。納得のいく選択をしよう
この記事では、「病院でマイナンバーカードの薬剤情報に同意しないとどうなるのか」という疑問について、多角的に解説してきました。
【同意しない場合の影響】
- 診察拒否などはなく、不利な扱いも受けない。
- 医療費が数十円高くなる場合がある。
- お薬手帳の持参や、丁寧な口頭での説明が引き続き必要になる。
【同意するメリット】
- 重複投薬や危険な飲み合わせを防ぎ、医療の安全性が向上する。
- 災害時や救急時でも、正確な情報が伝わり命が守られる。
- 高額療養費制度の利用がスムーズになる。
- 医療費が少し安くなり、お薬手帳が不要になるなど、利便性が向上する。
情報の提供に同意するかどうかは、完全に個人の自由な意思に委ねられています。 メリットとデメリット、そしてご自身のプライバシーに関する考え方を天秤にかけ、あなたが最も納得できる方法を選ぶことが大切です。
この記事が、あなたの不安を解消し、自信を持って最適な選択をするための一助となれば幸いです。
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